【白鵬の法的責任について】 | 弁護士高橋裕樹のニュースな法律問題ブログ

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やや下火にはなりつつありますが

日馬富士の貴ノ岩に対する傷害事件には
もう1つの問題があります

当日その場にいた白鵬の法的な責任です

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その場にいたのになんで止めないんだ
という話を
道徳的な問題や
「横綱としての〜」みたいな問題として
捉えているメディアが多いですが

刑事責任という観点から
明確な問題提起をしているメディアは少ないように思います

先日、お昼のワイドショーで
コメンテーターの方が
白鵬を共犯として立件することは無理でしょうと
話していました

結論からいいますと
僕の私見としては
白鵬は
傷害罪の共犯にあたる可能性が高いと考えています

まず、前提として
被害者を暴行した場合は暴行罪
その暴行で怪我をさせたら傷害罪
となります
(結果的加重犯)

そして、
暴行罪について共犯となるのであれば
その結果傷害が生じれば
傷害罪の共犯となります

一緒に殴っていれば当然ですが
(実行共同正犯といいます)

殴っていなくても
暴行をすることについての共謀があれば
共犯になります
(共謀共同正犯といいます)

簡単にいいますと
日馬富士が暴行することについて
白鵬と日馬富士とが意思を通じ合っていれば
頭の怪我などについて傷害罪の共犯になります

では、どういう場合に意思を通じ合っているかですが

「殴れ」と指示したり
「やっちまえー」と応援したり
凶器を貸したりしていれば
わかりやすいですが

このような明確な意思連絡がなくても
共犯にはなりえます

例えば
暴力団の組長が見ている前で
組員が
対立している他の暴力団の組員に
暴行をする場合
組長が暴行罪の共謀共同正犯に問われる可能性は高いです

「暴行しろ」と指示していなくても
組長と組員という
指示に従わなければならない上下関係を背景に

組長が
対立している暴力団に対して
圧力をかけたい、挑発したい、勢力を弱めたい
などの意思を有している場合

組員が
その意思を汲んで
まさに組長を忖度して
暴行を加え

その場にいる組長が
暴行を認識しながら
止めることもせずに見守っていた

という状況であれば
言葉などなくても以心伝心で
意思を通じていたという判断がなされます
(黙示の意思疎通)

では今回の白鵬はどうでしょうか。

報道ベースですが

白鵬が貴ノ岩の言動に苦言を呈し説教をしていた
その状況を日馬富士を含めた力士たちが認識していた
その後、日馬富士が
白鵬の話を聞く貴ノ岩の態度が悪いと
暴行を始めた
白鵬は暴行を止めずに見守っていた
暴行がエスカレートして貴ノ岩が大怪我を負う

大横綱で先輩の白鵬と
後輩の日馬富士

この人間関係を前提に
上記の流れが真実であれば

日馬富士が白鵬の意思を汲んで
礼節の教育という名の暴力に及んだ
とも評価できると思います

そうしますと
特段止めることもせずに見守っていた白鵬と
日馬富士との間には
黙示の意思疎通
つまり暴行についての共謀があった可能性が高いのではないかと考えられます
(報道されていない他の重要な事情があるのかもしれませんが)

なお、手で殴るなどの暴行について共謀があれば
その後エスカレートして
デンモクや酒瓶で殴る行為に及び
重大な結果が生じた場合も
その重大な結果について共犯としての責任を負わなければなりません

つまり、頭部裂創などの傷害を含めた
傷害罪の共謀共同正犯になるということです

関係者の事情聴取の結果をみなければ
なんともいえない部分もありますし

そもそも捜査機関には
立件するかどうかの裁量もありますので
理論的に傷害罪の共謀共同正犯になるからといって
立件しなければならないということはありません

捜査機関には
適切な事実認定を前提にした
適切な判断をしていただきたいと思います